朝、胸苦しい夢から目をさますと、グレーゴル・ザムザは、ベッドの中で、途方もない一匹の毒虫に姿を変えてしまっていた---
F・カフカの小説「変身」の有名な書き出しですが、私はある日、気が付くと金魚になっていました。
7月のある暑い夏の宵のことでした。中学の同級生takaから、同級生が集まっているから出ておいでという電話がありました。すでに酔っ払っているらしい彼の口調の向こうからは、仲間たちのにぎやかな声が漏れ聞こえていました。
今年の正月に中学の同窓会を企画運営した実行委員さんたちの集まりでした。私は、実行委員ではなかったのですが、なぜかお声がかかってしまいました。もう夕食を食べたあとでしたが、息子が送ってくれるというので、暑い夜、短パンに首タオルという出で立ちで出かけました。
駅前ビルの中にあるスナックは、同級生でブログ仲間でもあるyokoさんの知り合いのお店でした。中に入るとカラオケの音響が響き、10人あまりの同窓生が奥のボックス席に陣取っていました。迎えてくれたtakaはもともと陽気なやつですが、いつもにもまして大はしゃぎしているようでした。
後から行った私は、すでに出来上がっている彼らとペースを合わせるために、早いペースでビールを飲みました。正月の大勢での同窓会とは違って少人数の集まり、いろいろな話をゆっくりすることが出来ました。
驚いたのは、この夜集まっていた連中の中に、私のこのブログを知っている同級生がいたことです。私はばれたついでに、彼にもブログをやってみたらと、すすめてみました。彼は今のところ、見る方専門だと言ってましたが、ひょっとしたら今頃、密かに始めているかも知れません。
彼は、酔っぱらって大きな声で私のことを「そらへい」と連呼しましたが、何も知らない回りの同級生たちは、訝しがることもなく、相変わらず賑やかにおしゃべりしたりカラオケを歌ったりしていました。
何人かとおしゃべりをしているうちに、いくつも席を移動したようです。そこがもともと誰の席だったのか、ふと一人になった瞬間がありました。
カラオケを歌っているtakaを見やりながら、ビールの入ったグラスを置こうと目の前のテーブルに視線を戻すと、そこに青いパッケージの煙草と使い捨てライターがありました。見たこともないデザインでした。
私は、禁煙して3年あまり経っています。さすがに最近はもう煙草を吸いたいと思うことはなくなってきているのですが、お酒を飲んだときだけは気が大きくなるのか、時々吸ってみたくなる衝動に駆られることがあります。
その夜も、もちろんお酒が入っていました。しかも、予定していなかった酒の席です。それでも回りが私の禁煙を知っている町内の人とか職場の人たちなら、踏みとどまったのでしょうが、回りは久し振りに会う同級生です。つい、いたずら心がわきました。
もちろん、ここで吸ってしまったら、せっかく今まで続けていた禁煙が無駄になってしまうこと、喫煙を再開した人の泥沼の話などが頭をかすめたのですが、そこが酒の勢い、えい、ままよとばかり煙草のケースから一本取り出して口にくわえました。
同級生たちは相変わらず、おしゃべりやカラオケに夢中で、私の動作を気にとめる者はいません。私は、そばにある使い捨てライターを取って、本当に久しぶりに煙草に火をつけました。
あまり香りのない煙草でした。口の中いっぱいに煙が充満しましたが、どうしたことか煙を吸い込むことが出来ません。ただ無味乾燥な煙の味が口中に広がるばかりです。
まずい、おいしくない。胸の中心にきゅっと煙が通って、頭がくらっとする感覚、痺れてほうぜんとなる感覚が訪れません。すぐさま、こりゃ駄目だと、まだ火がついたばかりの煙草を灰皿でもみ消してしまいました。そして、同時に、ほっとしている自分がありました。
あとで思い出したのですが、煙草を吸うのには、ちょっとしたコツがいるのをすっかり忘れていました。煙を吸ったら、いったん息を止めるようにしてから、肺に吸い込むのです。そうすると、煙が肺に充満して頭がくらくらっとなり、とっても良い気持ちになるのです。
煙草を吸い始めたのは、大学の寮に入ってからでした。大人ぶってみたくて、粋がって見よう見まねで吸い始めたとき、先に吸っていた同級生や先輩から、「お前の吸い方、金魚じゃないか」と言われたことがありました。
今は知りませんが、昔は煙草を肺に吸い込まないで、ただふかすことを金魚と言って馬鹿にしたのです。なぜ金魚というのか、詳しいことは知りません。
私のこの夜の吸い方は、まさにこの金魚の状態でした。3年あまりの間に、なんと吸い方を忘れて初心者に戻っていたのです。でも、だからといって、また喫煙者に戻りたくもありません。もう煙草に対する好奇心はありませんし、今更大人ぶる必要もありません。
こうして私はこの3年あまりの間に、知らずに金魚になっていたのです。
「煙が目にしみる/クリフォード・ブラウン」
この記事へのコメント
プリウス
危機一髪でしたね。百害あって一利なし・・・禁煙成功、羨ましい・・・。
同級生の方々、学生時代に戻ってしまうのでしょうね、
まさしく「あの頃・・・・」にタイムスリップ。
昔からの友人が今のブログを読んで、
どんな感想なのか、気になりますねーー。
般若坊
そらへい
こんばんは
長い間、ジャズのお供は、珈琲と煙草でした。
一仕事終えたあとの至福の一服には今でも未練ありますね。
ただ、その喜びより、
自分の回りのいたるところが煙草の灰で汚れ
灰皿にうず高く積まれた吸殻を見る事のほうが耐えられなくなりました。
プリウスさんも、皆さんのブログを読みながら
ふつふつと発表の思いを募らせておられたのでしょうね。
そらへい
こんばんは
先日、藤沢周平さんのエッセイを読んでいたら、
酒飲みより煙草吸いに対しての方が
世間は寛大だというようなことを書いておられました。
今は、実情が全く逆転してしまってますね。
プリウスさんへのコメントで書いているように
私はただ、自分の部屋や車が煙草の灰で汚れ
灰皿に吸殻がうずたかく積まれるのが我慢できなくなっただけなんです。
人に迷惑をかけない限り、吸う吸わないは個人の自由の問題だと思いますよ。
b.b.mk2
はじめのカフカの件があるので別の期待をしつつも引き込まれました。
そらへいさんの掌で転がされてしまいました。うまいなぁ~♪
僕はやめられないですね。
このアイコンの絵だって吸ってるし・・・(笑)
himanaoyaji
私は禁煙してもう20年は過ぎましたよ・・・
FUCKINTOSH66
"金魚"、なるほどなるほど〜です。"口先だけでプカプカパカパカ"ってイメージからの言葉ですかねえ。でも「やっぱり美味い!」「ああこの感じ、たまらんっ!」とならずにすんで良かったですね。
ウチの世帯主くんは、NYでは外ですら吸える場所がほぼない&煙草1箱1000円以上!なので、当初はこれをキッカケに止めると頑張っていたんですが、いまや「朝顔の見張り番」と言い訳して我が家のファイヤーエスケープで堂々と吸うようになってしまいました。残念。でももちろん煙草代は家計からは渡してません(笑) 長々と失礼しました。
たいへー
また煙草を吸ってしまうケースって多いそうですよ。
昔は「煙が目にしみる」くらいふかしてたんですがね・・・^^;
muzik
子供ができたのをきっかけに止めて
それから四十代で再煙、その後再び禁煙。いご今に至っております。
確かに飲みに行くとあの煙、どーにかならんのか、と思いますが
いまは何ともなくなりました。
お友達の方のブログ、楽しみですね。
駅員3
いつ変身するんだろう?
きっかけはお酒? タバコ? カラオケ? …などと考えつつ、最後は青春を振り返ってほっと息を抜いたのでした
パパボン
同じ頃禁煙しました。わたしの場合、自律神経異常で水分さえのどを通らなくなり最後の手段としての禁煙でした。
タバコがどうこうではなくて、精神的な面が多かったのだと思いますが結果オーライです。
最近、お酒の量が多くなってきています。朝ジョグは酒抜き効果も狙っていますが・・・?
実家を離れて40年以上。そろそろ同窓会とかの連絡がありそうな年齢です。
わたしも、金魚になりながらも悪友たちとワイワイお酒を飲みたいです(^^v
yukky_z
酒も飲まなくても大丈夫な体質ですし^^ 今後両者とも、税金が
どんどん上がるんでしょうね? どちらも嗜む方々にとって これは、
マジ "新種のオヤジ狩り" なのかなぁ(^^;)?!
song4u
中学の同窓ですか。いいなあ。
ぼくには、中学以下の同窓で音信のある友人はいません。
父の仕事の関係で、途中で何度と無く引越ししたことが大きいなあ。
今、付き合いのある友人で一番古いのは、高校時代の友人です。
会社で時々、中学や小学校の同窓会の話になったりするのですが、
同窓会名簿にはぼくは恐らく行方不明者リストの中にあるのでしょう、
案内状が来たためしがありません。
時々、ふと、小学校や中学校の同窓生を思い出すことがあります。
記憶の中の彼らは、数十年前の当時の姿かたちです。
今も当時のままの姿かたちだったら、お化けですけどね。(笑)
当然ながら、みんなぼくと同い年なわけで、それぞれにそこそこの
ポジションでストレスを抱えながら生きてるんだろうなあ・・・
なんてね、どうでもいいことを、つい考えたりしてしまいました。
なちゃ
喫煙歴25年以上です
頭がくらくらする感覚すら有りません 笑
sigedonn
ふむふむと読ませていただき仕上げに
一曲。
うまい!
JAZZのおともは確かにそうでした。
紫煙で霞む店内に沈むようにして聴いていました。
ベルベット
でも良かったですね?再喫煙者にならず(笑)
呑んだ際に吸いたくなる気持ち、止めて十年以上経つ私でも
吸いたいと思う時があります。
ところでブログをお知り合いに読まれているとは・・・(笑)
良いのか悪いのか?と、言ったところですかね。
kasumi
同級生との語らい、いいですね。
楽しそうで、うらやましい~!
煙草と使い捨てライターのくだり、ハラハラしました。
おまけにクリフォード・ブラウンの煙が目にしみるですから(笑
クリフォード・ブラウンの心温まるの音色が、いいですね。
そらへい
こんばんは
ちょっと思わせぶりすぎましたね。
私もほぼ40年ほどは、「酒とバラの日々」ならぬ
煙草とコーヒーの日々でした。
煙草もお酒と同じで、効用面ばかりでないところが
かえって惹きつけるのでしょうね。
そらへい
こんばんは
非喫煙歴20年、もう大丈夫ですね。
煙草をやめて、肺がきれいになるまで
20年と聞きますからね。
私の場合、肺がきれいになるまで生きていられるかどうか・・・
そらへい
こんばんは
カラオケは私はほとんど駄目ですね。
音痴でとても人前で披露出来ません。
同級生じゃないけれど、聞く方専門です。
思いっきり吸えなかったのは、やはり心のどこかに
戻りたくない、戻ったらたいへんだという意識があったのかも知れません。
じっさい、味を確かめてほっとしたのも事実ですが。
マコツさんの喫煙は仕事柄でしょうね。
考え事するときなんか、思案煙草と言って良いんですが
逆にいらいらして本数が増えてしまったりすることもありますね。
そういえば、私は小遣い増やすために煙草やめた経緯もありました。
そらへい
こんばんは
そうなんですか。
やはりお酒に煙草が合うことを身体が覚えているのでしょうね。
そこへ気が大きくなり、自己規制が緩むからよけいだと思います。
ほんと、昔は煙が目どころか全身に染みこんでましたね。
そらへい
こんばんは
禁煙、子供がきっかけというのもよく聞きますね。
私は、若い頃一度だけ禁煙挑戦して1週間で挫折
それ以降、自分には禁煙は無理と、結婚しても子供が出来ても
やめようとしなかったのですが、
3年前、いろいろ思うところあって、やめること出来ました。
いちばんの理由は、煙草代を浮かそうと言うしけた理由でしたが。
ベルベット
ラックスマン真似ちゃいました。
そらへい
こんばんは
気を持たせてしまって申し訳ありませんでした。
変身と言うより、元に戻っていたと言うところでしょうか。
煙草を吸うということは、元々の人の状態からすると
変身になるのかも知れません。
その逆もありますが・・・
そらへい
こんばんは
私の禁煙の理由は、浮いた金で小遣いを増やすという情けない理由でした。
それから、もちろん、灰が散らかること、灰皿の吸い殻への嫌悪感、
そして、惰性で吸っていることへの嫌気でしたね。
私はお酒はあまり強くなくて晩酌の習慣もないのですが、
若い頃に比べると、おいしく思うことが増えてきている気はします。
とくに気の置けない仲間たちと飲むときは楽しいですね。
お正月の同窓会も、率で行くと地元の同級生の参加より、遠方の
同級生の参加の方が良かった気がします。
たぶん、地元の連中よりふるさとへの思いが強いせいかと思います。
パパボンさんの住所、幹事さんにちゃんと届いているのでしょうか。
そらへい
こんばんは
今の若い人は、お酒も煙草もやらない人多いですね。
若いときは、もう少し崩れても良いのではないかと
若いとき崩れまくったオヤジは思うのですが
どうなんでしょう?
そらへい
こんばんは
逆に私などは、小学校の時転校してきて
一学期だけ、凄く仲良くしたのに、また転校していった
同級生、今頃どうしているかなぁと思いますね。
母校で卒業していないから、名簿も残っていない
親しく遊んだ者でなければ、記憶にも残っていない存在
なのかも知れません。
私たちの正月の同窓会は今年還暦を迎える同窓会でしたので
かなり砕けて、より元の中学の雰囲気に戻っていた気がしますね。
もうみんな先が見えてますからね。
今までどこか肩肘張ったような、虚勢を張ったようなところがあったのが
なくなってきてました。
この傾向は、今後ますます強まっていくだろうと思います。
歳取ってくると、ただ同級生だったと言うだけで、
すべてが許され、解決されるんでしょうね。
そらへい
こんばんは
お久しぶりですね。
このブログ仲間、禁煙者も多いですが、
喫煙者も案外おられますね。
吸い始めや、しばらく煙草を切らしたときに
煙草吸うと、頭がくらくらしたのですが
確かにそのうちその感覚さえやってこなくなりますね。
25年、私の40年にはまだ15年ありますね。
そらへい
こんばんは
ありがとうございます。
確かに、若い頃、地面を這いつくばうように街中をうろついていましたが
ジャズ喫茶に行くときは、さらに深い地中に沈んでいる感覚でしたね。
大音量と、コーヒーの香と、紫煙で煙った室内・・・
禁煙を始めたとき、ジャズを聞きながら、コーヒーを飲むとき
煙草がない喪失感はけっこうありましたね。
そらへい
こんばんは
「煙が目に染みる」というタイトルでも良かったのですが、
ちょっと奇をてらってみました(笑)
禁煙を始めたとき、実は未練たらたらでした。
それでよほど哀しいことか、よほど嬉しいことがあったら
また煙草を吸おうと自分を慰めて、禁煙に励んだのですが
今回のことで、もう吸わなくても良くなりました。
知ってる人にブログ読まれるのは、照れくさいですね。
一応「そらへい」という仮面をかぶっているので・・・
追伸
LUXMANのブログパーツはcoregaさんに教えてもらって私も真似たものなんですよ。
http://coregar.blog.so-net.ne.jp/
そらへい
こんばんは
同級生もいろいろ喋ってみると、60歳、定年などを迎えるに当たって、
皆それぞれいろいろな局面があるみたいですね。
自分の親のこと、連れ合い、子供のことなども・・・
まあ約1名、そんなことかまいなしに騒いでいるのがいましたが。
煙が目にしみる
これも名演がたくさんあって、迷いましたが
真っ先に見つけたのがブラウニーで
はずせませんでした・・・
しばちゃん2cv
僕はまだ、禁煙したことないのです。
ken
自分は禁煙は無理そうです・・たぶん税金またあがっても・・
煙が目にしみるは好きなナンバーです、学生の時、映画アメリカングラフティでプラターズの歌聴いて好きになりました。
ブラウニーの演奏いいですね。
そらへい
こんばんは
禁煙というか、煙草をやめると体調が良くなり身体が軽く感じられるのは事実ですね。反対に失うものもあるのでしょうが。
そらへい
こんばんは
私もどれだけの夜をパソコンに向かいながらコーヒーを飲み、煙草をふかしまくってきたことか・・・
YouTubeで検索してみると、「煙が目に染みる」
ほとんどプラターズが出てきました。
クリフォード・ブラウンの演奏は、ウィズストリングスの中に納められているみたいです。
ぼんぼちぼちぼち
永久禁煙確実でやすね\(◎o◎)/
そらへい
こんばんは
変身したのか元に戻ったのか・・・
やっぱりものすごく嬉しいことか、ものすごく悲しいことがあったら
変心するかもしれません。